【FF14】~守護天節の昼~【ショートストーリー】

 これはFF14を元にした二次創作小説です。
 一部キャラのイメージが実際と異なる場合があります。

 そういったものが苦手な方はこのままブラウザバックしてください。
 大丈夫な方は続きをどうぞ。

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 開いた窓から吹き込む風に、かすかに乗る磯の香り。
 空気はひやりと肌寒いぐらいで、すでに季節は夏を終え秋の匂いを含んでいて、もうすぐ一年が終わることを感じさせる。
 砂糖と小麦粉を練った生地の焼ける甘い匂いと交わって、今年もこの季節を無事に迎えられたのだなぁと、私は感慨深いものを感じるのだった。

 守護天節──
 この季節、聖人達は十二神によって天上の宮殿へ招かれ宴に興じるという伝承があった。
 聖人達が居なくなる事により、彼らの加護が弱まったこの季節は、魔物が跋扈する。
 そう、信じられていた。
 故にこの季節、日暮れ前に家に戻り閉じこもるのがかつての守護天節という行事だった。

 かつての──
 そう、すでにそれは過去の行事なのである。

 私達、冒険者が多くこの地を訪れ魔物を駆逐するようになった結果、人々は聖人の加護が弱まったとしても、夜であろうとも都市の平和が揺らぐことはなくなった。
 その一端を担っていると思うと、少し誇らしい気もするが、それは些細なことだろう。
 大事なのはそこではなく、その結果として風習が変化したということだ。

 宴に興じる聖人達よろしく、大いに騒ぎはしゃぐ祭りへと……。

 漂う甘く香ばしい香りに、ミトンを片手にかまどを開ける。
 わっと吹き出した水蒸気混じりの熱に、眼鏡が白く曇ってしまった。
 砂糖混じりの小麦が焼ける匂いがふわりと広がって、焼き上がりは十分だと知らせてくれた。
 
「うん、いい匂い。これなら子どもたちもきっと喜んでくれるわね」

 焼きあがったものをテーブルの上に載せて冷まし、すぐに用意してあった次の鉄板をかまどの中へと押し込んで蓋を閉じる。
 クッキーに、カップケーキにかぼちゃパイ、他には何を作ろうかと、少し前から集めた食材を眺めつつ、焼きたてのクッキーを一つ味見がてらに口にした。
 窓から覗く空は快晴で、遠くまで雲は一つもない。
 これなら明日のお祭りもきっといい日和だろう。
 愛用の天球儀を持たない一日は、緩やかに穏やかに、甘い香りとともに過ぎていった。

 微かに肌寒い海風は、着込んできたケープのおかげでなんとか凌げそうだった。
 夏の陽の光を浴びてまばゆいばかりに輝いていた海が、今ではどこかしら色あせて見えるのは、これからやってくる冬の所為だろうか?
 街の方からは賑やかな音楽が流れてきていて、お祭りがすでに始まっていることを告げている、少し急ごうと私は足を早めた。

 バスケットに手製のお菓子を詰め込んで、リムサ・ロミンサの街を歩く。
 時折駆け抜け行く子どもたちのはしゃぐ声は、平和を実感させるに十分なものだった。
 第七霊災があったことや、蛮神問題、帝国、様々な問題があったとは思えないような、平和な景色。
 駆けていく小さな影を見送りながら、平和とはいいものだねと、思わずにはいられない。

「冒険者くんだ、奇遇だねぇ」

 ふいに声を掛けられて振り向けば、そこには見覚えのある赤と黒の制服を着込んだミコッテ女性の姿があった。
 私達、冒険者が所属する特殊陸戦隊の隊長。

「ル・アシャじゃない、見回り?」
「うん、街がお祭り一色だからね、その分巡回を増やしてるんだ。冒険者くんは祭りに参加するっぽいね……いい匂いするなぁ」

 そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべる彼女に苦笑して、バスケットを差し出す。

「ふふっ、よかったらおひとつどうぞ?」
「いいの? ありがとう~」

 嬉しそうにバスケットを覗き込み、彼女は食べやすいクッキーの包みを選んで手に取った。
 早速とばかりに包みを開いて一つ頬張ると、彼女の顔に幸せそうな笑みが灯る。

「うん、おいしい。料理の腕も一流なんだね」
「ふふん、そうでしょうとも。なにせあのレストランビスマルクの料理長お墨付きだもの。それより、見回りの最中にそんなでいいの?」
「仏頂面して街中を歩くのが仕事じゃないからね。せっかくの楽しいお祭に不機嫌そうな顔の人がウロウロしてたら安心して楽しめないでしょう? 見回りの仕事は市民を不安にさせないこと、楽しい気分に水を差さないこと、何かあっても大丈夫だと安心させること、だよ」

 そう言って彼女は胸を張って見せる。
 その自信に溢れた様子は、たしかに安心させられるものだった。

「我らの隊長は頼もしいわね」
「ふふん、もっちろん。歴戦の冒険者を率いる特殊陸戦隊の隊長なんだからね」

 任務でもなく、依頼でもなく、ただ平和な昼下がりの他愛もないおしゃべり。
 そう言えば、彼女とこんな風に話をするのはもしかしたら初めてだったかもしれない。

「そうそう、今年もコンチネンタルサーカスが何か催し物をやるみたいだよ」
「へえ、また来たのね」

 あのサーカス、またぞろ何か企んでないといいんだけどね。
 
「それじゃああたしは見回りの続き……に」
「おねーちゃんたちー、トリック・オア・トリート!」
「あら」

 駆け寄ってきた子どもたちが目を輝かせてお決まりの文句を口にする。
 私はそのつもりで今日は街に来ているから問題ないのだが、隣のル・アシャはしまったとばかりに固まっていた。
 ああ、これは……。

「ふふっ、元気のいいおばけさんたちね。どれでも一つもっておいき」

 そう言って籠の中身を見せてやると、子どもたちが瞳を輝かせてかごの中に釘付けになる。
 そろり、そろりと足を運ぶ隣の彼女にちらりと視線を向けると、黙っていてとばかりに視線を返し──。

「ねえ、黒渦団のおねえちゃんはー?」
「はうっ」

 逃げることはできなかったらしい。
 しばしの沈黙の後──。

「いたずらだー!」

 子どもたちが一斉にル・アシャに襲いかかり、青空に子供のはしゃぎ声と彼女の悲鳴が響いた。

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