これはFF14を元にした二次創作小説です。
一部キャラのイメージが実際と異なる場合があります。
一部3.0のネタバレを含みます、ご注意ください。
オルシュファンと光の戦士(女性)のお話。
そういったものが苦手な方はこのままブラウザバックしてください。
興味があるという方は続きをどうぞ。
夜になり、リムサ・ロミンサで配っていたお菓子があらかたなくなった頃、私は一旦冒険者居住区にある自宅へと取って返した。
そこにはまだ数籠に入れて余りあるお菓子の用意がある。
子どもたちへのはけ具合は思いの外多かったが、特に問題はないだろう。
本題はこの後、ある場所の人達へ持っていくものが大半なのだ。
夜も程よく更けて、帳が降り始めている。
頃合いと言うものだろう。
「それじゃあ、そろそろ向かうとしましょうか……」
微かに滲む涙を振り払って、荷物をまとめてテレポの詠唱を開始する。
程なくエーテルは私を包み、地脈を通じて私の姿をかの場所へと送り出した。
エーテライトの前に現れた途端、吹き荒ぶ雪に体を抱きしめる。
『お祭りだからといって、そんな格好では風邪をひいてしまうぞ』
ふわりとマントで包まれたかのように、吹雪が弱まった。
この服装ではやはり寒かったかもしれないなと思いつつ、今のうちにとばかりに私は司令室の方へと足を運んだ。
冒険者殿が足を運んでくれたのは守護天節の夜も更け始めた頃だった。
一時はこの地を訪れることをつらそうにしていたが、その様子はもう見られない。
きっと彼女なりの折り合いがついたのだろう……オルシュファン様もきっと喜ばれるに違いない。
「コランティオさんもおひとつどうぞ」
そう言って彼女は手に下げた籠を差出してくる。
中には色とりどりのお菓子が詰め込まれており、そのどれもが丁寧にラッピングされていた。
おそらくすべて彼女の手製だろう。
「一ついただくとしよう」
『相変わらずだなコランティオ、もう少し砕けてもよいのだぞ。……それと、私が居なくなったドラゴンヘッドを良く支えてくれて、礼を言う』
「──?」
今のは?
何か聞こえたような気がして周りを見回してみるが、側ではヤエルが仕事を黙々と続けているだけ、眼の前に居る冒険者どのは私の様子を見て首を傾げているだけだ。
気の所為──なのだろう。
いや、そんなことも、あるのかもしれない、なにせ彼女が居るのだから。
「今日は、泊まってゆかれるのか?」
「──ええ、そのつもり。明日、日が出る前に出発するつもりよ」
「そうか。キャンプ・ドラゴンヘッドは何時でもキミを迎え入れよう。ゆっくり休んでいかれるとよい」
積み上がった書類を整理しつつ、扉の開く音に顔を上げると見知った顔があった。
複雑な思いがないと言えば嘘になるが、今は彼女がまた変わらず笑顔でここに訪れることができるようになったことを喜ぶべきなのだろう。
守護天節の装いをした彼女は籠に一杯のお菓子を詰め込んで、ひとまずとコランティオに話しかけている様子だった、それが終わり私の方へもやってくる。
一息入れるにはちょうどよいかもしれない。
「お仕事お疲れ様です」
「ありがとう、貴方は冒険者ギルドの依頼?」
「それはもう終わりましたよ、今はオフです……おつかれみたいですね」
「書類が片付かなくてね」
「ちゃんと休みをとったほうが能率あがりますよ。おひとついかがですか?」
そう言って差し出されるかごの中から、かわいいカップケーキを一つ受け取る。
器用な守護天節用の飴細工が施されており、このまま飾っておいてもいいぐらいの出来だ。
そう言えば、オルシュファン様が手料理を作ってもらったときにやたら惚気けていたなと、ふと思い出してしまった。
『ヤエル、顔色があまり良くないぞ。私に散々休憩をするよう言っていたお前がそれを疎かにしてどうする。体を大事にしろ』
「……?」
風の音、だろうか。
ふとざわりと何かが聞こえた気がしたが、今は雪も穏やかである。
「どうかしましたか?」
首を傾げてくる彼女はきょとんとしたままで、もしも何かあったのなら彼女が気づいているはずだと思うのだが……。
「そういえば、今日は守護天節だったわね」
「ええ、どこもすっかりお祭り騒ぎでしたよ」
「……ねえ、守護天節の、もう一つの逸話をしっているかしら?」
クルザスにまだ日が昇る前、暗い時間に私は服を着込んでドラゴンヘッドを発った。
目指す場所は、イシュガルドが一望できる、あの場所だ。
吹雪はすっかり静まって、空は星々の輝きに満ちていた。
これなら、朝焼けの景色がとても美しく見えることだろう。
厩舎に預けていた黒チョコボも、すでに目をさましていた。
『よく面倒を見てくれているのだな。お前に渡したとき以上にたくましく、そして美しくなったようだ』
「当たり前でしょう。一緒に……色んな所に行ったわ」
白と黒の雪原に、チョコボの足跡だけが残る。
ゆっくりと、夜明けが来るのを惜しむかのように、その足取りはゆっくりだった。
『お前の冒険の話を聞くのは、いつも楽しみだった』
「私も……楽しかったわよ。貴方ったら何時も目を輝かせて、それこそ冒険に憧れる子供みたいなんだもの」
『お前の話はどれもとびきりだからな。なにせ現代の英雄譚そのものだ、憧れるなという方が無理だろう?』
微かに白み始めた空を見ながら、手綱を握りもしないのに、チョコボは場所をわかっているかのように足をすすめる。
やがて崩れたスチールヴィジルを通り過ぎて、遠目に見えるイシュガルドが、そしてそこを一望できる場所に作られた石碑が近づいてくる。
『……何時から、気づいていたのだ?』
「ドラゴンヘッドに来てすぐよ」
『もっと早く返事をしてくれても良かったのではないか?』
「だめよ……」
そんなことをしたら、泣いてしまうから。
あそこでだけは、そんなことは出来ない。
だから、夜明け前まで待ったのだ。
『泣かないでくれ、友よ……また、来年も会いに来るから』
「……うん」
石碑の前でチョコボから降りて彼の隣に並ぶ。
私だけに見える姿は、次第に薄くなり始めていた。
『たまにでいい、コランティオやヤエル達が無理をしていたら、休ませてやってくれ』
「しょうがないわね」
次第に日が昇り、イシュガルドを照らしていく。
差し込む陽の光が眩しくなり始めた頃、彼の気配も朝もやのように消えてしまった。
守護天節の、もう一つの逸話。
曰く、守護天節の夜、聖人の守りが薄くなり魔物が跋扈する時期、生者と死者の境もまた曖昧となり、生者を守るために親しきものが訪ねてくるという。
「……みんな、気づいてたと思うわよ」
宛の無くなった言葉だけが、青空へと消えていった。